障がい者福祉の課題解決には、一社だけの力では限界があります。だからこそ私たちは、志ある仲間を全国に増やすべく、兼業社会起業家を育てる【障がい者グループホーム経営サロン】を立ち上げました。福祉に想いを持ちながらも一歩を踏み出せなかった方々が、グループホーム開業というかたちで地域に貢献し始めています。
今回は、そんなサロンの仲間である3名の社会起業家にインタビューし、それぞれの想いと実践をご紹介します。

広島県三原市・ぽれぽれの家 石田さん「みんな違ったまま、共に生きられるように」
今回登場していただくのは、広島県三原市で「ぽれぽれの家」を運営している、合同会社Re-luck-roomの代表・石田さん。
看護師としての葛藤から当社代表・紀(きの)との出会い、グループホーム開業に至る思い、これからの夢についてうかがいました。
【プロフィール】
合同会社Re-luck-room
代表者 石田 喜久子(いしだ きくこ)さん
看護師として10年以上のキャリアを持つ。紀による開業サポートを受け、2022年8月に広島県三原市で障がい者グループホーム「ぽれぽれの家」をオープン。2025年3月現在、2棟のグループホームを運営中。
https://www.re-luck-room.co.jp
葛藤から見出したグループホーム経営という可能性
看護師の方がグループホームを経営されるというのは、なかなか珍しいと思うのですが。どのような背景でその道を選ばれたのでしょうか?
転勤で精神科単科の病院に関わることになったのがきっかけでした。
重症心身障害児・者の病棟に配属になったのですが、言葉にするのが難しいくらい、本当に考えさせられることが多くて……。
病院では、重度の身体障害と重度の知的障害が重複している子どもたちを担当していたこともあり、小さい頃から病院で生活せざるを得ないことについて「これってどうなんだろう」と自問自答していました。
でも、自分一人の力ではどうにもできないし、日々悶々としていましたね。仕事のモチベーションを保つのにも、目標を見失わないように自分を律するのにも苦労していました。
そんな中で「私には何ができるのだろう?」「地域社会にはどんな受け皿があるのだろう?」と考えるようになりました。
そこからグループホームを始めようと思われた理由は?
紀さんとの出会いが大きなきっかけでした。
病院には退院後に生活する場所がなくて、何十年も入院せざるを得ない方たちが少なくないんです。
退院支援の壁に直面していた時に紀さんの勉強会に参加して、障がい者グループホームという選択肢があることを知りました。
でも正直なところ、最初は自分が事業をできるとは思っていませんでした。利用者さんとの関わりはできると思いましたが、経営や運営は別の話だと。
事業を始めるかどうか迷っていた時に、背中を押してくれたのも紀さんでした。「実現できる可能性が少しでもあるなら、そっちを選ぼう」と言ってくれて。踏み出す決意をしました。
経営の経験がない中で不安はありませんでしたか?
過去に簿記を学んでいたので、会計知識の基礎はあったんですよね。
もう年齢的にも、次はないだろうなと。このタイミングで紀さんに出会えたのなら、私はこの出会いを生かさなければと思ったんです。
「やる」と決めたら突き進むだけでいい
初めてのチャレンジで生活できる場所を作るのは、簡単なことではないと思います。原動力はなんだったのでしょう?
「できたらいいな」ではなく「こうしたい」という強い想いです。「できないかも」「難しいかも」という考えは持ち込まず、「やる」と決めたら、紀さんの勉強会で学んだことをそのままやる。それに尽きます。勉強会ではグループホーム経営のイロハを丁寧に教えていただいたので、分からないことはすべてそこで聞き、実行するという形で進めました。
強い想いがあるだけに、思い通りにならない時の悔しさも大きいのではないでしょうか。
その時はたしかに悔しいのですが、私の想いが潰れるようなことではありませんでした。うまくいかなかったら次の方法を考えればいいだけ。たとえば物件を断られたら、また次の物件を探せばいいんです。
石田さんの「こうしたい」の中身とは、具体的にはどのようなものでしょうか?
金子みすゞさんの詩で「みんなちがって、みんないい」という一節がありますが、私もその通りだと思います。
この世に同じ人はいないし、皆それぞれ違っていいんです。色んな人がいる中で、一緒に生活できる世界が当たり前になればいいなと思っています。
思いをカタチにしたことで同志ができた
1棟目が完成し、入居者の生活が始まった時の率直なお気持ちは?
本当に始まったんだ、すごいなと思いました。それまでは「ここがグループホームになる」という実感はあまり湧かなかったんです。利用者さんが入居して生活が始まって、「本当に実現できたんだ」と初めて実感しました。自分で作ったんですけどね(笑)今は「ぽれぽれの家」に住む皆さんが楽しく幸せに過ごしてほしい、それだけを思っています。
長く病院で働かれてきた中で感じた、グループホームとの違いはどんなところでしょうか?
一番の違いは「責任」です。グループホームでは経営者として、何か問題が起こった時には私が対応しなければなりません。病院では目の前のことに集中して、次にバトンを渡す役割です。果たす役割や責務の違いを感じていますね。
経営者として、時に決断に迷うこともあるのではないかと想像します。その時はどう対処していますか?
当初は紀さんの勉強会で、分からないことを質問したり、他の人の例を参考にしたりしていました。
今では、スタッフと相談しながら決めるようにしています。日々の生活のことですから、本当に色んなことが起こりますが、その都度スタッフと話し合って対処しています。私はスタッフを「同志」だと思っているんです。雇う側、雇われる側という考えはないですし、実際スタッフなしでは運営は成り立ちませんしね。お互いに信頼関係を築けるようコミュニケーションを大切にして、あーだーこーだと話し合いながら進めています。
同志となる仲間を集めるプロセスも大切かと思います。石田さんが一緒に働きたい人とはどんな人ですか?
利用者さんに対して温かい気持ちで接することができる人ですね。経験は問わず、誠実に人と向き合える方だと嬉しいです。
想像していなかった未来がここにある
最後に、そんな仲間と一緒に叶えたい夢や目標を教えてください。
「ぽれぽれの家」が利用者さんにとって、楽しく生活できる場になることが目標です。みんなが気軽に参加できるような、ちょっとした楽しみがあるって大切だと思うんですよね。嬉しいことに最近では、スタッフが積極的に提案してくれるんですよ。先日は利用者さんから「お好み焼きを食べたい」というリクエストがあった際に「夕食時にお好み焼き大会を開いてもいいですか?」と提案してくれました。
他にも、利用者さんのお母さんがサンタクロースに扮して訪れてくれたり、バレンタインデーにはチョコを配ったりと、季節のイベントも開催しています。

グループホームの開所は、石田さんの人生にとっても大きな変化だったのではないでしょうか。
そうですね、以前は誰かを雇うことなんて想像もしていませんでしたから。それが今、現実になっていることに驚きますし、とにかく楽しいです。「ぽれぽれの家」を立ち上げる前は、自分と家族だけの生活でした。職場も自分が辞めてしまえばそこで終わりですよね。
でも今は違います。「ぽれぽれの家」に行ったら仲間がいて、利用者さんの生活がある。事業を始める前と後では、世界が広がったように感じます。今ではこの事業が私の生きがいになりつつありますね。
これからも、スタッフがイキイキと働ける環境を作り、利用者さんが心から生活を楽しめるように関わり続けていきたいと思っています。