障がい者福祉の課題は、一社だけで解決できるものではありません。
だからこそKINOPPIでは、全国に志ある仲間を増やすため、【障がい者グループホーム経営サロン】を運営しています。
今回お話を伺ったのは、経営サロンの仲間であり、さいたま市でグループホーム「チャームハウス」を運営する澤井利文さん。
40年近く、外資系コンサルティング会社でキャリアを積み、定年後のセカンドキャリアとしてグループホーム運営に挑戦されました。現在は3棟を運営し、自ら管理者として現場にも立っています。定年後の2024年7月に1号棟を開設、今年11月には4棟目がオープン予定。わずか1年半で20名の規模に達するまでに急成長されています。
一見すると、異業種から福祉へ飛び込んだ“華麗な転身”にも見えます。しかし実際に語られたのは、「もう辞めようかなと思うこともある」という率直な言葉でした。
利用者との関わり。
世話人との関係性。
24時間365日続く運営。
そして、“人と人”を支える難しさ。
「開設するより、続ける方が圧倒的に難しい」
そう語る澤井さんに、定年後に福祉の世界へ飛び込んだ理由と、実際に運営して見えてきた現実について伺いました。
作るのは簡単。でも、“続ける”のが本当に難しい。
外資系コンサル40年の澤井さんが、グループホーム運営で向き合う“人と人”の現実

「定年後、このままコンサルだけで終わっていいのか」と考えた
澤井さんは、40年近く外資系IT企業やコンサルティング会社で働いてきました。
大企業の業務改革や戦略立案を担い、外資系コンサルティングファームのパートナーとして第一線で働き続けてきたキャリアです。
澤井:定年する2年くらい前から、“65歳以降どうするんだろう”って考え始めたんです
長年仕事中心で走り続けてきたからこそ、定年後の時間をどう使うのか、少しずつ考えるようになっていったといいます。
最初に興味を持ったのは、実は“福祉”ではありませんでした。
澤井:ペットを飼っていたので、最初は“ペットに関わることを何かできないかな”って思っていたんです
調べていく中で出会ったのが、ペット共生型グループホームでした。さらに、当時勤めていたコンサルティングファームで、厚生労働省からグループホーム関連の調査事業を受託していたことも重なります。
澤井:精神障害者の数が増えていることも知っていましたし、“これは社会的に必要な領域なんだろうな”という感覚はありました。
また、息子さんの奥様が精神科病棟の看護師だったこともあり、精神障害のある方の暮らしはどこか身近なテーマでもあったそうです。
澤井:病院に長く入院しているけど、本当は地域で生活できる人がたくさんいる、という話も聞いていました。退院先がない、受け皿がない。そういう現実があるんだなと。
コンサルタントとして“社会課題”を分析することはあっても、“暮らし”の現場に直接関わる経験はありませんでした。
だからこそ、“自分の後半人生で、本当に人と向き合う仕事をやってみたい”という気持ちが少しずつ強くなっていったといいます。
「本当に大変なのは、”始めたあと”だった」
グループホーム事業を学ぶ中で、澤井さんは複数の事業者やフランチャイズを比較していたそうです。その中でKINOPPIを選んだ理由について、こう語ります。
澤井:KINOPPIは、“ちゃんと人がいる”感じがしたんですよね。他は、“資料を渡すので、あとは動画見てください”みたいなところも結構あった。でもKINOPPIは、2週間に1回、時間を決めて直接話ができたんです。
コンサル業界に長くいた澤井さんだからこそ、“伴走してくれるかどうか”は重要なポイントだったのかもしれません。
澤井:ある程度、時間を決めてもらった方が、自分もちゃんと向き合えるじゃないですか。当時のKINOPPIは今みたいに何十棟もある感じじゃなかったので、“これなら自分でもできるかもしれない”って思えたんですよね。
“福祉の専門家”ではなくても、地域の中で役割を持ちながら関わっていく。
そのKINOPPIのスタイルは、異業種出身の澤井さんにとって、挑戦しやすい入口だったようです。
現在、澤井さんは3棟のグループホームを運営しています。さらに今年11月には、新たに1棟をオープン予定。利用者数は20名規模になる見込みです。
一見すると、順調に拡大しているようにも見えますが、澤井さんはこう断言します。
澤井:開設するだけなら、実はそこまで難しくないんですよ。
物件を探し、人を採用し、行政申請を行う。そこまでは、コンサル時代の経験も活きたそうです。
澤井:申請関係も、自分で全部やりました。そういう意味では、今までの仕事経験が役立った部分はあります。でも、本当に大変なのは、利用者さんが住み始めてからです
制度や立ち上げ準備だけでは回らない。実際に運営が始まると、そこには“人と人”の関係性がありました。
「人と人」の問題は、マニュアルでは解決できない
澤井さんが最も苦労しているのは、“関係性のマネジメント”だといいます。
利用者同士の相性。
世話人との相性。
支援拒否。
感情の起伏。
突然変わる態度。
特に驚いたのは、“働く側”のマネジメントだったそうです。
澤井:利用者さんも、世話人さんも、本当にいろんな方がいらっしゃいます。採用して、研修して、“じゃあ来週からお願いします”ってなっても、当日来ないこともありました。LINEを送っても既読にならないし、電話しても出ない(笑)朝6時に電話かかってきて、“今日行けません”って言われることもあります。そうすると、自分で行くか、タイミーで探すか、誰かに頼むか、その場で考えるしかないんです。
外資系コンサルの世界とは、まるで違うスタッフマネジメント。コンサル時代のように、“理論通りに進めれば解決する”世界ではありませんでした。
だからこそ、この仕事の難しさを強く感じているそうです。
さらに、利用者同士の関係も簡単ではありません。ある利用者さんは、他の利用者さんへの不満が強くなり、ホーム内の空気が悪化。また別の利用者さんは、周囲の言葉をネガティブに受け取りすぎてしまい、被害感情が強くなってしまうこともあったといいます。
チャームハウスでは、現在“時間差で一人ずつ食事をする”スタイルを採用しています。
一般的には、利用者同士が交流できるよう、みんなで食卓を囲むホームも少なくありません。

澤井:最初は、“みんなで仲良くご飯を食べられたらいいな”と思っていたのですが、ひとつの家に4人しかいない世界なので、一人の影響はすごく大きくて。雰囲気が悪くなるなら一対一の方が良いかなと思いました。
しかし、実際に運営してみると、そう簡単ではありませんでした。
喋りすぎてしまう人。
逆に全く話せない人。
“良かれと思って”関わりすぎてしまう人。
4人で一緒に食事をすること自体が、逆にストレスになるケースもありました。
そこで現在は、20分ずつ時間をずらし、世話人と利用者が“一対一”で食事をするスタイルに変更しています。
澤井:一対一で話すと、その人が何を考えてるのか、少しずつ見えてくるんです。利用者との会話では、一日で言うことが変わることもあります。だから、継続して関わらないと分からないんですよね。
“支援”というより、“関わり続けること”。
澤井さんの話からは、そんな感覚が伝わってきました。
「もう辞めようかなと思うこともあります」
率直に、“辞めたいと思うことはあるか”を聞くと、澤井さんは笑いながらこう答えました。
澤井:ありますよ。もう辞めようかなって思うことも。
それでも続けている理由。それは、利用者さんたちの変化でした。
澤井:誕生日会とかイベントで、利用者さんが楽しそうにしてる姿を見ると、“やってよかったな”って思うんです。
また、ホームの空気が変わる瞬間にも、この仕事の意味を感じるそうです。
澤井:利用者さんが一人退去されたあと、“最近ホームの雰囲気が良くなったね”って話が出たことがありました。
4人という小さな共同生活。
だからこそ、一人の存在が場全体に与える影響も大きい。
“暮らしを整える”とは、単に住まいを提供することではない。
そんなことを考えさせられるエピソードでした。
「何十年、この人の人生を支える覚悟が必要」
グループホームには、“一生ここで暮らすしかない”利用者さんもいます。親御さんが高齢になり、兄弟にも家庭がある。そうなると、地域のグループホームが“人生の土台”になるケースもあります。だからこそ、この仕事には覚悟が必要だと澤井さんは話します。
澤井:だからこそ、何十年、この人の暮らしを支えるんだっていう覚悟は必要だと思います。作るのは簡単ですが、“続ける”のが本当に難しい。でも、人と向き合う仕事をしたい人には、すごく意味のある仕事だと思います。結局、人と人なんですよね。
40年、論理と再現性の世界で生きてきた澤井さんが、定年後に飛び込んだ“正解のない仕事”。そこには、マニュアルでは解決できない、“暮らし”の現実がありました。
<関連リンク>
澤井さんが経営する埼玉県さいたま市のグループホーム「チャームハウス」
https://charmhouse.net/about/
KINOPPIが運営する「障がい者グループホーム経営サロン」
https://kinoppi-salon.com/