2015年9月に開かれた国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」を機に、徐々に浸透した「サスティナブル」という指針や目標。GOOD LIFE HOLDINGS株式会社では「サスティナブルなまちづくり」をビジョンとしています。
今回は代表・紀(きの)に、「サスティナブルなまちづくり」とは何なのか?このビジョンに込めた想いや展望を伺いました。
※GOOD LIFE HOLDINGS 株式会社はキノッピの家、KINOPPI CAFEの運営会社です。
福祉=「まちの機能」として捉え直す
–紀さんが思い描いている「サスティナブルなまち」とはどのようなものでしょうか?
紀: 「福祉全員参加のまち」ですね。
現在、数ある仕事・業界・ジャンルのうちの一つと見なされている福祉を「まちの機能」として再定義できないかと考えています。
福祉って誰でも参加できるし、誰にとっても必要なまちの機能だと思うんです。だから「全員が福祉の一員である」という認識にシフトしたい。支援する・される関係を超え、お互いが支え合って共存できるまちを到達点として描いています。
—福祉はサービスが必要な人・そうでない人と対象が限定されるイメージがあるのですが。なぜ「全員参加」を目指しているのでしょう?
紀:国が提唱する「誰一人取り残さない社会」の実現には、障がい者、高齢者、LGBTQなど、今の社会で生きることになんらかの困難さを持っている方を支える仕組みが必要です。
そのためにはまず「支援者の裾野を広げよう」と。地域に住む人が活躍できる場を創出することで、これまで福祉サービスを必要としていなかった人にとっても、福祉が必要な機能になると考えています。
—「福祉全員参加」は、利用者だけでなく、スタッフにとっても価値ある取り組みなのですね。
紀:「福祉サービスは利用者のためにある」という側面は重要ですが、私がより重視しているのは、スタッフにとっての価値です。福祉に参画する人たちが、この仕事、活動、生き方を通して、人が本来持っている「困っている人たちに手を差し伸べる心の豊かさ」に気づく。その結果、助けが必要な人たちに支援が届き、すべての人がより幸せになれると信じています。
「誰かに必要とされる人生」から生まれる幸せの循環
—福祉に参画する方々、スタッフが得られる幸せとは、例えばどんなものでしょうか?
紀:当社のバリューで掲げている「いつまでも誰かに必要とされる人生」が得られることだと考えています。誰かに求められ、誰かの役に立てるって幸せだと思うんですよね。
—利用者にとっても、「支援」という関わりを通して誰かの生きがいやモチベーションの起点になれるって、きっと幸せですよね。
紀:そうですね。真剣に自分と向き合う姿や、思いやりの心に触れる体験は、人を成長させます。「ここにいていいんだ」「自分もこのスタッフのようにいきいきと働きたい」「いろいろな人と話したい」という気持ちが湧いてくると思うんですよね。
スタッフとの関わりを通して、自分で暮らしを選択し、楽しみを実感できるようになる。それが利用者さんにとっての幸せだと思います。
「誰からも必要とされる人生」というスタッフ側の幸せから、利用者さんは「世の中ってこんなに面白いんだ」と気づくのではないでしょうか。ロジックで構築する仕組みではなく、自然と生まれる幸せの連鎖が、家族や行政にも起こっていくと想定しています。
—安心感を得たことで、背中を押さずとも人は一歩踏み出せる。それが利用者の方々に起こっているのですね。
紀: そうですね。「傾聴」を大切するスタッフの姿勢も大いに関係があると思います。話を聞いてもらうと、人って自然と活力が湧いてくるんですよね。
自らの不甲斐なさを受け入れ見えた「やさしい街づくり」というビジョン
—紀さんは、福祉の仕事の経験がない中で事業を立ち上げたと伺っています。最初から明確なビジョンをお持ちだったのでしょうか?
紀:正直なところ、最初から崇高な想いや理念を持っていたわけではないんですよ。今のような考えを持つきっかけは、精神障害者家族会との出会いです。この社会をより住み良いものにしようと、地道に活動されてきた経緯を聞き、心が動きました。
特に忘れられないのが、統合失調症のご兄弟をもつ親御さんの言葉です。当社のグループホームにご兄弟が入所したのですが、「30年ぶりに夫婦でゆっくり一晩眠れました」と。
—その言葉を聞いてどのように感じられましたか?
紀:「自分のことばっかり考えてきちゃったな」って。同じ日本で、同じ地域で、すぐそばで暮らしている方々の存在に、これっぽっちも気づけなかったと、自分が情けなく、恥ずかしかったですね。理想的なことばかり言って、実際には何もできていない、上っ面だけの自分に気づいたんです。
同時に、これからは経営者として社会にもっと貢献しなければならない。「やさしい街をつくろう」と決意しました。「カッコつけた綺麗事」と思われるようなことに、本気で取り組み始めたんです。
今まで自分のことばかり考えてきたからこそ、残りの人生は、ずっと「自分以外のため」に生きてきた人たちに対して、自分の能力を最大限発揮したい。家族会のみなさんとの対話を通じて、生き方が決まりました。
—全ての人が幸せで健やかであるように、という紀さんの願いを感じました。最後に、今後の展望を教えてください。
紀: 現在は、茨城県内で福祉サービスを起点とした共生社会の実現に向けてチャレンジを重ねていますが、今後はさらに幅広いステークホルダーを巻き込み、他県にも展開できる形を作りたいと思っています。
さらに、「サスティナブルなまち」づくりを推進する経営者を当社で育成し、各地での実践を通じて、当社の思想を広げていくような展開が理想ですね。
実現に向けて一歩ずつ、スタッフや利用者さんと共に歩んでまいります。