「自分らしい暮らし」のために。
一人ひとりの思いに寄り添った個別サポートを行う「キノッピの家」には、さまざまな経歴とアツい思いを持ったスタッフがいます。
今回は主任として現場の統括や育成に携わっている堀 清子(ほり きよこ)さんに、支援で大切にしている考えや、利用者さんとの関わりを通して得た学びなどをうかがいました。
「やってあげる」のではなく「やってもらう」のが支援
堀さんの前職は高齢分野の訪問介護とうかがいました。障害者支援の現場で働くことに不安はなかったのでしょうか?
堀:最初は確かに不安でしたね。でも、現場に入って少し経つと、この仕事の楽しさに気づきはじめました。ちょっとした声かけで相手が大きく変わったり、成長したり。利用者さんってすごく「伸びしろ」があるんですよね。
できないことを「やってあげる」のではなく、できることをどんどん「やってもらう」のがグループホームでの支援なんだと気づいてから、どんどん楽しくなりました。
現在堀さんはスタッフの育成にも携わっていますよね。そのお考えは人材育成にも活かされていますか?
堀:そうですね。ある日、食器を洗っている利用者さんをみた新しいスタッフから「あれは私たちの仕事じゃないんですか」と聞かれたことがあって。「これが自立支援なんですよ」と答えました。今は難しくても、これからできるようになるかもしれない。だから少しでもできることは積極的にやってもらうんです、と。
するとスタッフは「感動した」と言ってくれました。きっと「お世話する」つもりで入社してきたんだと思うんです。でもそれは違うんですよ、とスタッフには伝えていますね。
私たちスタッフが支援の在り方や受け止め方を変えることで、障害に対する偏見もなくしていけるんじゃないかと思っています。
利用者さんへの声かけに関しては、どのようなことを意識されていますか?
堀:助けてもらう声かけを意識的にしています。「これ重たいからちょっと持って欲しい」とか「ちょっと届かないから取って」とか。
これまでの経験から「助けてもらってばかり」と感じることの多い利用者さんに、「自分にはできることがたくさんある」と気づいてもらいたいんですよね。
利用者さんってみんな優しくて、人を助ける力を持っているんです。
特に印象的だったのは、新しく入所することになった若い男の子が、母親と外で揉めていた時のことです。いつも静かな利用者さんが、「僕、ちょっと行ってきます」と言って、その男の子に「おじさんがついているから大丈夫だよ」と声をかけて、部屋に連れてきてくれました。頼もしかったですね。
誰かがピンチになると力を発揮してくれるんだと実感しました。
どんな人でも誰かの役に立ち、感謝されるのは嬉しいことですよね。だから「ありがとう」と伝えることも大切にしています。
偏見は、観察することで薄れていく
先ほど「障害に対する偏見」への思いを伺いましたが、自分では気づきにくい「偏見」というものについて、堀さんはどのように捉えていますか?
堀:正直なところ、過去には障害のある人を「怖い」と感じたこともありました。
偏見は恐怖や不安から生まれます。そして、その恐怖や不安の原因は「知らないから」だと思うのです。
でも、この仕事を通して、障害のある方が「急に」暴れ出すことはないんだ、と思えるようになりました。
行動には必ず理由や原因があります。状態が悪くなる過程を理解することで、「暴れる」という状態を未然に防ぐことができると学びました。
たとえば「今日は少し具合が悪そうだな」「もしかして薬を飲んでないのかな」と気づくことで、問題の顕在化を防ぐことができるんですよね。
行動に理由や背景があるのは、障害の有無に関わらず、誰しもに共通することですよね。
堀:私たちも同じですよね。たとえ感情コントロールが難しい方であっても、その方の特性をよく知ることで、「この言葉が引っかかるんだな」など、引き金になる部分がだんだん分かってきます。
ただ、私一人ではできることに限界があります。だからこそ、スタッフ一人一人に「観察が大切」と伝えています。その人をよく見て、理解することが大事だよ、と。それが今の私の役割だと思っています。
たとえばスタッフが自分の孫に「障害のある人って怖くないんだよ」と伝えることができれば、ひとつ偏見が薄まるんじゃないかと思うんですよね。
また、「キノッピの家」のご近所さんが友人に「お隣にグループホームがあるけどどうなの?」と聞かれた時に、「全然イメージと違って安心だわ」「とてもお掃除を頑張っているよ」と話してくれたら嬉しいですよね。
私からひとり、二人と同じ考えを持つ人が増えていくことで、少しずつ偏見が薄れていくと思っています。
助け合いの循環の起点として
「キノッピの家」で働き始めてから、堀さん自身にはどんな変化がありましたか?
堀:一番大きな変化は、人間関係で「許せない」と思うことが減ったことです。「こういう人もいるよね」と、相手の背景を考えて、許容できるようになりました。
相手と自分の重なる部分に気づいたり、自分の家族にも似た部分を見つけることもあって、家族との関わり方も変わってきました。
身内だとまだ難しい部分もありますが、自分の子どもに対して「この子が言うことにも理由があるんだな」と思えるようになって。自分自身も生きやすくなりましたね。
最近は「許容されにくい」社会に息苦しさを感じている人が多いように思います。堀さんの学びが活かせそうですね。
堀:実はこのグループホームでの学びを、教育現場でも活かせないかなと考えているんです。
たとえば「職業体験」として「キノッピの家」に来てもらい、子どもたちに「いろんな人がいていいし、できないことがあっても、それは悪いことではないんだよ」と知ってもらえたら良いですよね。
もし実現できたら、利用者さんと子どもたちが「助け合う」経験をしてほしいです。利用者さんが子どもたちを助け、子どもたちも利用者さんを助ける。お互いに良い経験ができると思います。
「キノッピの家」は「助け合いの循環」を生み出す場なのだと感じました。
最後に、その循環の起点として実現したいことを教えてください。
堀:最終的には、「街」がつくれたらいいなと思っています。
残念ながら、グループホーム立ち上げの際には、いまだに反対運動が起こったり、反対意見をいただくことがあります。
でも、みんなが助け合える「やさしい街」になれば、「ここに住みたい」と思う人が増えるはず。そんな街をつくるのが私の夢です。
今の延長線上にその未来があると、信じています。