「自分らしい暮らし」のために。
一人ひとりの思いに寄り添った個別サポートを行う「キノッピの家」には、さまざまな経歴とアツい思いを持ったスタッフがいます。
今回は2024年1月に入社し、現在は管理者として活躍している大津有里(おおつなおり)さんに、支援で大切にしている考えや苦労などをうかがいました。
生活の場への関心からキノッピに
まずは、大津さんの入社の経緯から教えてください。
大津:もともとは高齢者福祉の仕事をしていたのですが、社会福祉士の資格取得を機に、障害福祉にも興味を持ちました。
その後、就労継続支援B型事業所で働く中で「利用者さんの生活の場である“住まい“に関わる支援がしたい」という思いが強くなったんです。そこで出会ったのが「キノッピの家」でした。
実は「キノッピの家」の存在は、1号棟がオープンした頃、求人情報を見かけて知っていたんです。当時のことを思い出してホームページを見ると、数棟だったはずのグループホームがものすごい勢いで増えていて驚きました。そこで興味がぐっと湧いてきて。
ちょうどそのタイミングでまた求人が出ていたので、「力になれるかも」と応募し、現在に至ります。
入社後は、どんな日々を過ごしていますか?
大津:利用者さんやスタッフの皆さんとの会話がとにかく楽しくて。気づいたら今に至っている、というくらい充実していますね。
一方向ではない、相手に寄り添った支援を
これまでも福祉の現場でご活躍されてきたとうかがいましたが、支援において特に大切にされていることは何でしょうか?
大津:一番大切にしているのは、利用者さんの尊厳を守り、あるがままを受け止めることです。介護、就労支援、生活支援……どんな支援の形であっても、私の根底にある考えですね。
ただし、「キノッピの家」の利用者さんは比較的軽度の知的・精神障害のある方がメインなので、ぱっと見ただけでは障害があると分からない方も少なくありません。障害特性や症状の濃淡も一人ひとり違います。
だからこそ、私たちスタッフが利用者さんの個性や特性をキャッチして、深く理解できるかが重要だと思います。キノッピで大切にしている「個別化」という考え方を、改めて自分の中に練り込んでいますね。
「違いを理解する」ために、具体的にはどんな実践をされているのでしょうか?
大津:まずは「相手が見ている世界を理解しようとする」ことから実践しています。自分の価値観やものさしで相手を見るのではなく、対話を重ねて、相手自身の感覚を一つひとつ理解していくことですね。
たとえば、私にとっての「嫌」と利用者さんにとっての「嫌」は、同じ「嫌」でも中身が違うかもしれません。相手の感覚を知り、「どうしたらその『嫌』が解消されるんだろう?」と、一緒に考える。対話を重ねながら、利用者さんが安心して、心地よく過ごせるような環境をつくっていきます。
また、支援では安全面に配慮するのは大前提ですが、「強制的」にならないよう気をつけています。利用者さんの人生は利用者さん自身のものなので、好きなように生きてほしいんです。
だから相手をコントロールしないように気をつけていますし、ときに一歩引いて見守ることもあります。「今、この人はどうしたいのだろう?」と考え、ベストな対応を模索していますね。
「狭間」だからこその難しさ
グループホームという初めての現場で働くなかで、印象に残る出来事や経験はありますか?
大津:支援が必要か、必要でないかという「狭間」にいる方たちの支援は本当に難しいと感じています。キノッピの利用者さんの多くは、比較的軽度の知的・精神障害のある方。中には「この人が支援を必要としてるの?」と感じることも正直なところありました。
特に印象に残っているのが、20代の女性の利用者さんです。金銭管理に苦労していて、インターネットの甘い言葉に引き込まれて、金銭トラブルに発展してしまいました。
この出来事を機に、「自分には何ができるだろう」と考えるようになりましたね。支援者として力不足を感じる瞬間でもありましたし、もっと自分のスキルの幅を広げなければと痛感しました。
現在は、金銭管理の役に立てばと、成年後見人を目指しています。専門研修を受けるなど条件を満たすには時間がかかるのですが、チャレンジしてみようと。さらに精神保健福祉士の取得に向けても、日々勉強しているところです。
高齢介護と障害福祉をつなぐ架け橋に
大津さんの今後の展望についてお聞かせください。
大津:今後は高齢や障害の枠を超えた人材育成にも関わっていきたいと思っています。
障害のある方々が年齢を重ねて、介護施設に入所するケースがこれから増えてくると思います。ケアマネジャーが持つ知識や経験だけでは対応できない場合も出てくるはず。
高齢と障害の現場経験と、社会福祉士としての専門性を発揮しながら、さまざまな分野で困っている人を助けられる存在になりたいですね。
大津さんが目指す人材育成の中で、「こんな人と働きたい」という理想像はありますか?
大津: 利用者さんが自分らしい人生をおくることを、真正面から考えて支援してくれる人ですね。
私が知識や経験を伝えることで、「利用者さんファースト」の思想を持って支援する人が増えれば、スタッフの専門性や価値も底上げされると思っています。
実際、プロフェッショナルな人たちはたくさんいるんですよ。それぞれが本当に頑張っているからこそ、この仕事の価値を伝えて、同じ思いを持つ仲間を増やしていきたいですね。
最後に、「キノッピの家」で実現したいことも教えてください。
大津:「今、この瞬間」を大事にしていきたいですね。
仲間と一緒に、今できることに全力で向かっていくことで、キノッピがさらに発展したらいいなと思います。自分にできる最大限の力を注ぎたい。それだけですね。